2006年2月18日土曜日

モノづくりへのこだわり

「はてな」のブログでこんな話をするのも何だが(笑)、はてなの近藤社長の本が出た。


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近藤 淳也

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このところ近藤社長の話を本やウェブで読むことが多いのだが、彼の話のいいところは読む者を元気にしてくれるところだ。

ぼくの場合、(前にも書いたように)元気になるとすぐに本を閉じてしまうので、おかげでちっともページが進まない(笑)。


これも前に書いたことだが、その感じは現代思想の、とりわけポスト構造主義と呼ばれる一群の思想家の著作がもつ軽やかさに似ている。

そこに共通するのは、「つながろう」とする欲求であり、高い山を作ることよりも先に進む方を取ろうとする思考方法なのだろう。


しかし、もうひとつ彼の話がぼくを元気にしてくれる理由がある。それは、彼がとても「モノづくり」にこだわっているということだ。


「モノづくり」などと言うと、時代に乗り遅れた重厚長大産業が悔し紛れに言っているような感じもするし、そもそもITベンチャーが「モノづくり」を標榜するというのも妙な感じがするかもしれない。


しかし、ぼく自身も広告業界という場所にいながら、「モノづくり」にはある種のこだわりがある。


広告代理店が自前でコピーライターを置かなくなってもう随分たつ(まったくいない訳ではない)。

広告代理店にいるのは、今やクリエイティブディレクターだけだ。ディレクターが方向性だけを決めて(これはもちろん大事なことだが)、実際の制作作業はプロダクションの仕事となる。


経営的には合理的だろう。人件費は抑えられるし、旬のいいクリエイターを目的に応じてチョイスできるのだから。

しかし、そこには間違いなくクリエイティビティの空洞化が起きている。


自動車業界でも、自動車部品のモジュール化が進み、完成車メーカーは組み立てだけやっていても事業が成立するようになった。しかし、今でもトヨタが重要部品の開発を手放さないのは、それを手放した瞬間に技術の空洞化が起こり、部品メーカーの言いなりになってしまうと知っているからだ。


広告のクリエイティブも自動車の開発も変わらない。外部化した瞬間に、技術は失われる。


はてなの近藤社長はそこにこだわっている。

会社が少しずつ大きくなって何が社長として悩みかと聞かれて、彼は「モノづくりの時間が減る」ことだと言う。

彼はもちろん社長としての目で会社全体を見ながら、経営の舵とりをやっている。その上で、自らモノづくりに携わることの重要性を知っているのだ。


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はてなの取締役でもある梅田望夫氏の「ウェブ進化論」によれば、IT企業にはメディア志向の会社と技術志向の会社があるという。

アマゾンや楽天は前者の会社であり、Googleやはてなは後者の会社だ。

前者は生活に関わりの深いサービスを提供しているのでなじみは深い。後者は、なじみという点では劣るが、そのかわりワクワクさせてくれるような何かを持っている。

前者がリアルの世界にもあるものをネットの世界に移し換えただけ(それだけでも存在価値は十分すぎるほどだが)なのに対して、後者はどこにも存在しないサービスを創造しようとしているからだ。


Googleとはてなは、ともに検索サービスからはじまりながら、その技術性とクリエイティブ性によって、サービスの枠を猛スピードで広げつつある(Yahoo!は検索サービスからスタートしたが、その後はどちらかと言えばメディア企業として生きようとしているようだ)。


それを支えているのは、この10年の経営のスタンダードだった「アウトソーシング」の発想ではなく、必要なモノは何でも自前で作ってしまおうという精神だ。その試行錯誤の中で学び、よりよいモノを目指そうという、それこそベンチャー的な精神なのではないだろうか。


それは、決して経済原理に代えられないものだと思う。