2004年8月9日月曜日

わかりたいあなたのための現代思想・入門(小阪修平・志賀隆生・竹田青嗣他著、宝島社文庫)

わかりたいあなたのための現代思想・入門 (宝島社文庫)わかりたいあなたのための現代思想・入門 (宝島社文庫)
小阪 修平 志賀 隆生 竹田 青嗣

宝島社 2000-03
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「あらゆる価値は相対的なものであって、絶対的な価値は存在しない。そうしたゼロ地点に立って、あらためてどんな価値を組み立てていくのか。それが社会生活を営む私たちにとっての思考の課題であるはずだ」

そんな風に考えはじめた学生の頃、自分のこの考えは現代思想の中でどう位置づけられるのだろうと思って、はじめて手に取ったのがこの本でした。当時は文庫ではなく別冊宝島の一冊として出ていました。その後、それなりに売れたのでしょうか、新装版が出、さらに文庫版が出て現在にいたっています(写真は新装版のものです。使い込んだ様子がわかりますね)。

「入門」と言いますが、なかなかに奥が深いのがこの本の特徴です。はじめて読んでからもう18年くらいたつ訳ですが、今でも折りあるごとに本棚から取り出してはパラパラとめくっています。

現象学から記号論・構造主義を経て、ポスト構造主義にいたる100年ちょっとの思考の地図がそこにあります。その地図が正確であること、それがこの本が古びない秘密かもしれません。

地図さえ正確であれば、あとは興味のおもむくままに、また思考のつながるままに、それぞれの場所に出かけていけばいいのです。現代思想には、汲めども尽きないほどの思考の水脈があるのですから。出かけていくたびに違う発見がある。前に来たときとは違う風景にいつも出会える。

時には地図にある道が間違っていることもあるかもしれません(私はまだ発見していませんが)。それでも、地図を頼りにそこに出かけていくことができるということ、地図と対照しながら確かめることができるということ、そのことが大事なのだと思います。


そういえば、amazon.comのこの本の書評には、ある読者から以下のようなレビューが寄せられていました。

「この本の原本はすでに書かれてから10年以上の月日が経過している。ところがそこに書かれているニーチェやフッサールに始まる現代思想の解説はほとんど色あせることない内容を今なお保持している。それは、現代においては哲学、思想といったものがいかに現実の社会との関連を失った形で存在し、普通に生きている人々の生活から遊離してしまったかということの証明でもある」

同じ現象からまったく異なる結論を引き出す人もいるようですね。私が思うに、思想の潮流というものは、10年や20年で変化するものではありません。そもそも思想は流行ではない。現代思想が10年たって色あせるようなものであったとしたら、この本自体とっくの昔に絶版になっていたことでしょう。

20年近くこの本を読み返しながら、私の眼前にはいつも現実の日常がありました。現代思想の問題は、私の眼前の日常の問題といつもつながっていたのです。だからこそ私はこの本を開くたびそこに異なる風景を発見していたとも言えます。異なる日常の事件に出会うたび、現代思想の異なる思考の局面が私の前に現れてくる。そこに現代思想の面白さと奥の深さがあるように思います。


哲学マップ (ちくま新書)哲学マップ (ちくま新書)
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もう一冊、最近出た本では、その名も『哲学マップ』(貫 成人著、ちくま新書)があります。こちらは現代に限定せず、古代ギリシャから東洋思想までを射程に収めた哲学・思想の全体図となっています。いきおいトピック毎の記事量は少なくならざるを得ませんが、『わかりたいあなたのための...』に負けず劣らず的確な地図が描き出されているように思います。


また、現代思想の中でも最前線と言える「ポスト構造主義」に的を絞るなら、この本もいいと思います。その名も『ポスト構造主義』(キャサリン・ベルジー著、折島正司訳、岩波書店)です。


ポスト構造主義 (〈1冊でわかる〉シリーズ)ポスト構造主義 (〈1冊でわかる〉シリーズ)
キャサリン・ベルジー 折島 正司

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女性の筆によるせいでしょうか(こういう言い方は問題があるかもしれませんが)、語り口が気さくで、比較的読みやすく、とっつきやすい本になっています。

ところで、哲学・思想書、しかも現代のそれを読む最良の方法は、わからなくてもとにかく読み進むことだと思います(かく言う私もいまだにちんぷんかんぶんの本が山ほどあります)。英和辞書なしに英語の長文を読み進むがごとく。わからなさに耐えながら読み進むうち、なんとなくわかる箇所に出会うことがあります。そういう箇所を見つければこっちのもの。そこを中心に前後に読みを深めていくうち、少しづつわかるところが広がっていきます。


けっして順番どおり読む必要なんかないのです。飽きてきたら、また別のページを開いてみる。そこからしばらくわからなさに耐えながら読み進む。最終的に、一冊の本の中で数箇所わかるところを見つけられればまず成功と言えます。

注意すべきなのは、本の上だけでわかってしまわないこと! 常に現実社会の場面に置き換えながら読み進むことです。そして本を閉じて、今度は日常の中で考えること。そうするうち、日常の場面と現代思想の問題意識とが重なってくる経験に出会うと思います。

この本の訳者も「あとがき」の中で、こう述べています。

ポスト構造主義の考えかたのうちに、なるほどと思えるところがあったら、それを使用して元気にそして幸せに生活してみようというのが、ベルジーさんのメッセージだと思う

そう、それがポスト構造主義の最良の読み方だと私も思います。ポスト構造主義は決して真理の書ではない。真理などどこにもない。あるのは現実社会の人間の営みだけです。そう、ポスト構造主義は、現実社会で使うための思考の道具なのです。元気に生きるための!